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[連載:高橋信也⑦] 変化の時代、技術屋のキャリア形成で大切なのは「食いぶち確保」と「好きを追究」の両立だ

2011/09/27公開

 
PMOの達人・高橋信也のプロジェクト最前線
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株式会社マネジメントソリューションズ  代表取締役/CEO
高橋信也

外資系コンサルティングファーム2社を経て、大手メーカー系システム会社へ転職。PMとしてグローバル案件などを手掛けた後、2005年に各種プロジェクトマネジメント支援を行うマネジメントソリューションズを設立。著書に『PMO導入フレームワーク』(生産性出版/税込2310円)がある

前回は、起業を志す方に向けてわたしなりの考えを書きましたが、そこから派生して、今回はエンジニアのキャリアづくりについて書こうと思います。なぜなら、起業で気をつけるべきポイントと、個人のキャリア形成のポイントは、共通点が多いと思うからです。

企業経営と、個人のキャリア形成の肝は共通する点が多い。そのポイントはフローとストックのマネジメントだ

企業経営と、個人のキャリア形成の肝は共通する点が多い。そのポイントはフローとストックのマネジメントだ

前回の連載を少しおさらいすると、わたしの考える理想的な会社経営というのが、フロー型事業とストック型事業の双方を追いかけるというものでした。この考え方をエンジニア個人に置き換えると、時流に乗った”フローな技術”を駆使し、開発実績を上げているエンジニアは、転職マーケットや業界内で注目されることになります。

一例を挙げれば、システム構築案件のほとんどがオープン系開発だったころのJavaが、この”フローな技術”に当たるでしょう。

が、ITにおける技術の旬は、短期間でサイクルを終え、さらに新しい技術に注目が集まるようになっていきます。IT業界のトレンドが大規模SI案件からWebサービスづくりに移行し、技術面でもJavaからLAMP、Objective-Cなどにとトレンドが移り変わっている現状が、それを示していると言えます。

誤解のないように補足すると、Javaそのものが「枯れた」わけではなく、「Javaをマスターしていることで転職マーケットで優位に立てる」という状況が終わった、ということです。

こうした現実を考えると、ある時期に旬である技術、つまりフロー型のスキルを習得することばかりに執着していると、次なる旬の技術に対する備えがおろそかになってしまう。だから、会社経営と同様に、フロー型で時流に乗りながら、同時並行でストック型のスキルも蓄積できたなら、それが最良のキャリア形成につながるはずです。

そう考えるきっかけをくれたのは、先日、当社に中途入社したエンジニアでした。彼は8~9年も前からPHPに興味を持ち、開発にかかわっていました。8~9年前といえば、さきほど述べたようにJavaの全盛期です。多くの企業がJavaを用いた開発を売りにしようとしていましたし、採用市場でもJavaができるエンジニアを熱望する企業ばかりでした。

彼もまた、仕事ではJavaも扱っていたそうですが、それとは別にPHPを使ったプログラミングに没頭していた。当時、PHPがここまでメジャーな開発言語になるとは、多くの人が思っていなかったでしょう。それでも彼は、興味のおもむくままに独学をしていたわけです。

やりたいものを自分で見つけ、動き出すエンジニアこそ「最強」

Javaをフローな技術として駆使しつつ、PHPという(当時は)マイナーな言語をストックしてきた彼の入社を、わたしたちは即決しました。

もちろん、直接の採用理由は、PHPに長けた技術者をピンポイントで必要としていたからです。マネジメントソリューションズが提供しているプロジェクトマネジメント・ツール『ProViz5』のPHP版開発が進行中で、どうしてもPHPに精通したエンジニアがほしかった。見方によっては、「偶然そのニーズにハマっただけ」と言えるかもしれません。

でも、彼の入社を即決した最大の理由は、別のところにありました。こういう姿勢で技術と向き合っている人物ならば、きっとこれからも新しい可能性にチャレンジし続けてくれるはずと考えたからです。

彼は、面接の時にこんなことを言っていました。

「スニーカーとジーンズが仕事着」のギークも、かかわるビジネスの盛衰に対してはアンテナを張っておく必要がある

ビジネス側の人間から「スニーカーとジーンズが仕事着」と揶揄されることもあるギークも、かかわるビジネスの盛衰に対しては常にアンテナを張っておく必要がある

「自分は根っからのギークなので、これからもずっと技術屋としてキャリアを作っていきたい。でも、だからこそ、将来性を感じる事業をしている会社で働きたい」

語弊を恐れずに推察するなら、彼にとって、PHPがメジャーな開発言語になるかどうかといった予測や、その予測が当たるかハズレるか、なんてことはどうでもよかったのだと思います。とはいえ、「成長ビジネスに身を置けば、必ずエッジの効いた技術が必要になってくるはず」と考え、将来性のあるビジネスで切磋琢磨をしていく道を選ぼうとしていた。その視点や考え方が素晴らしいと感じました。

経営者としての視点で言うならば、旬な技術をマスターしている技術者よりも、いち技術者として気になってしょうがないもの、やりたくてしょうがないものを愚直に勉強しているような技術者に、より大きな可能性を感じるものです。特に、20代のうちは「目先のフロー」よりも「やりたいこと」を追究している人の方が魅力的だと思いますね。今の時代、IT業界に限った話ではなく、「次にどんなトレンドが来るか」なんて本当に誰にも分かりませんから。

それに、競争力のあるスキルを身に付けるためには、やはり「好きこそものの上手なれ」だと思うのです。わたしもかつて、新卒入社したITコンサルティングファームで、最初の2年ほどプログラミングをやっていました。仕事上求められるものを、それなりに仕上げ、そこそこのクオリティは出していたつもりです。

しかし、周りを見回すと、そこには「もう本当にプログラミングが好きでしょうがない」という人間が何人かいました。彼らの書くコードは実際素晴らしかったですし、この人たちには絶対にかなわないと感じたものです。そうなると、人間、仕事が「楽しいもの」ではなくなっていきます。わたしの場合、本当に興味・関心を維持し続けるものを探し続けた結果、「マネジメント」に行き着いたわけです。30歳前後のころでした。

その時点では、「もしドラ」のような本が出て、ドラッカーが今のように注目されるとは想像もしていませんでした。

キャリア形成で大切なことは、「気になってしょうがないもの」を見つけ、トレンドに惑わされずにやり続ける姿勢。それがストック型のスキルとなり、フローとストックの両方をバランス良く身につけるチャンスが、いずれ向こうからやって来るものだと思います。

「食っていく」と「好きを追究」の共存に不可欠なのがリスク感度

ただし、ストック型のスキルを身に付ける上では、一点、気をつけなければならないことがあります。フローな技術だけを追いすぎた結果、ストックがないまま時流とともに「過去の人」になってしまうリスクと同様に、ストック型のスキル習得に固執しすぎるリスクもあるということです。

さきほど「気になってしょうがないものを追究するメリット」の一端をご説明しましたが、好きでやり続けたことが強みに昇華されるまでには、いくつかの条件が整うことが必要になります。その条件を一言で言うならば、「人を魅了することができるか否か」ということに尽きます。

魅了するポイントが技術面なのか、知識量なのか、はたまた人間としての生き方なのかは、人によってそれぞれでしょう。とはいえ、起業と同じで、仕事をする上での大事な目的として「食っていくために稼ぐ」ことが外せない以上、それが直接的・間接的に「収益」につながるものにならなければしょうがありません。

かつ、ストック型で身に付けた強みや魅力を、自らの言葉でシンプルに説明できるまでにならないと、本当の意味で人を惹きつけることはできません。最近、人気コミックの『モテキ』が注目を集めていますが、あのようなオイシイ展開は、実社会ではごくごくまれにしか起こりませんからね(笑)。

やや強引ですが、これをエンジニアのキャリアに置き換えると、「好きだから」とストック型で開発してきたものが、自然と世間に評価され始め、引く手あまたになるなんてことは”モテキ幻想”でしかないのです。

何が言いたいのかというと、企業経営でもキャリア形成でも、中長期で発展していくために欠かせないのは「食っていくための仕事をしながら、好きなことも深掘りすること」の両立が大切だということです。もちろん、ストック型で成功を収めることができれば、その後フロー型になりますから、一概に「フロー=食いぶち」、「ストック=夢や趣味」と分類すべきではありません。

さらにこの考え方を一歩突っ込んで言えば、どんなに好きなことでも、どこかで意を決して撤退すべきタイミングが来ることもあるでしょう。会社経営と同じで、趣味や夢に執着しすぎていたら、「食っていく」ことができなくなりますから。

ならばいつ見切りをつければいいのか。これは、会社経営ならば経営者の、技術者のキャリア形成ならばその当人の、「リスク感度」次第です。感度の優れた人は、「早すぎる撤退」による失敗からも、「遅すぎた撤退」による痛手からも無縁なまま成長を続けられる。感度が鈍い人は、夢に押し潰されたり、現実ばかり追いかけてやりがいをなくしていく。それくらい、リスク感度というものは重要だと思うのです。

では、どうすればこのリスク感度を上げられるか? それは次回書きたいと思います。

撮影/外川 孝(人物のみ)


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