[連載:伊藤直也①] ソーシャル全盛の今、"感性オリエンテッド"な人に僕はなりたい
2011/04/01公開
グリー株式会社 メディア開発本部 ソーシャルメディア統括部長 プロデューサー
伊藤直也
2002年に新卒入社したニフティでブログサービス『ココログ』の開発担当となり、一躍有名になった若きトップエンジニア。その後、はてなで『はてなブックマーク』など各種サービスを立ち上げ、2010年にグリー入社。自身のブログ『naoyaのはてなダイアリー』なども人気だ
僕がWebの世界に入って約10年になりますが、今は10年か20年に一度の転換期だと思います。Webサービスのプラットフォームとしてソーシャルメディアが伸びてきて、これまでの技術トレンドが大きく変わろうとしている。
また、ほぼ同じタイミングで、ネットのコミュニケーションを一変させるスマートフォンが、爆発的な勢いで世界に普及しています。モルガン・スタンレーの調査でも、すでに上回っています。これって、『Windows 95』搭載PCが出た時以来の、技術とデバイスのトレンドが同時に変わる大転換期なんです。
Webの世界では、けっこう前から「次のプラットフォームはソーシャルメディアになる」と言われていました。Facebookが全米のアクセス数でGoogleを抜いてトップに立った2010年、予測が現実になったわけです。この流れをけん引してきたのは、2005年ごろにWeb2.0ビジネスに参入したベンチャー企業たち。あのころ立ち上がったWebベンチャーの競争がひと段落して、アメリカではFacebook、日本ではグリー、DeNA、mixiあたりが勝ち残った、というのが僕の印象です。
2011年以降の数年間は、このWeb2.0の勝ち組企業が、モバイルを主戦場にグローバルプラットフォームの座を競うことになるでしょう。そして、グリーの直近の目標は、スマートフォンにも対応しながら、日本発の国際版Webサービスをつくり、世界で1億人のユーザーに使ってもらうこと。
特に僕が担当しているSNS本体は、「すべてのエンターテインメントとつながる」をキーワードに、マルチデバイス対応やUI改善をガンガン進めています。スマホの豊かな表現力をうまく活用できれば、世界レベルでのサービス拡大も夢じゃないですからね。
「情報処理」や「情報科学」だけが強みになる時代は終わった
ソーシャルメディアが主要なプラットフォームになったことで、Webサービス開発、特にプラットフォームを作る側に求められるのが「社会学」になったんじゃないか。最近、そう思う機会がすごく増えました。スーパーエンジニアになるには、人の感性や感情を汲む力がなきゃダメというか。
ソーシャルメディアで大事なのは、コミュニケーションの総量が増え、そこで提供されるサービスがビジネスとして成立することです。そのためには、大勢のユーザーに繰り返し使ってもらい、ネット上のコミュニケーションを活発にさせなければなりません。だから、開発する側に、「人はどんなときにコミュニケーションしたいのか」、「どうすれば使いやすくなるか」といった"感性オリエンテッド"な発想が必要になるんです。
インターネット黎明期からGoogle登場までの間、スーパーなエンジニアになるには「情報処理」の知識が必須でした。そして、Googleの大成功は、ネットの世界にコンピューターサイエンスを持ち込んだところにあります。最先端の情報科学で、ネット検索とそれにまつわるビジネスを変えたわけです。
でも、今って情報処理や情報科学だけでは勝てない時代なんだと思います。Googleが開発したソーシャルメディアがヒットしていない理由を僕なりに解釈すると、要は技術オリエンテッド、機能オリエンテッドな発想でつくられたものだからじゃないかと。ソーシャルの世界では、やはりコミュニケーションの本質みたいなものを理解していないと、良いサービス、ヒットするプロダクツが作れないんです。
もちろん、僕もコードを書きますし、技術が分かっていた方が良い部分はたくさんあります。僕がグリー入社後にやったケータイ用SNSのスマートフォン移植なんか、リリースがちょっとでも遅れるとすぐ競合に負けてしまうような世界で、スピード感がハンパない。技術が分かっていれば、速く作れるからその分有利ではありますよ。
とはいえ、コードを書くだけなら、僕よりすごい人はごまんといるわけで......。僕の場合は、彼らと競争するための抜け道として、コミュニケーションに興味を持ったんです。それが、運の良かったことに、今、すごく役に立っている。そんな感じですかね。
第一線のWebエンジニアが、オフタイムに『CanCam』を読む理由
ソーシャルメディア開発の第一線で仕事をしていきたい。もし、そう思っているエンジニアがいるなら、人間の行動を観察する能力や、それを具体的なサービス企画に落とし込む能力を磨かなきゃダメだと思います。
これってもう、センスみたいなものですから、確実に身に付く習得法があるわけではありません。僕も、正直手探りですし(笑)。
それでも、経験上、してはいけないことは分かっているつもりです。自分の感覚だけに頼って作ろうとすると、幅広い層のユーザーが繰り返し使って楽しいサービス・機能がなかなか作れないんですよね。興味を持ってくれるユーザーの層が、狭まってしまうからでしょうか。
『GREE』の場合は、10代から40代50代の男女幅広い層のユーザーがSNSを利用していますから、何を作るにも常に「僕以外の人、僕の周りにはいないタイプの人たちが、使って喜ぶものか?」と自分に問い掛けることが大事になります。
例えば、僕は女性の世界観というか、趣味嗜好みたいなものを少しでも理解しようと、家や社内で『CanCam』などのメジャー女性誌と、最近流行りのデコデコしい女性誌なんかを読んだりしています。これ、社内で女性向けアプリを作っていた人の真似なんです。
一方で、「若い子たちにデコデコしいプロダクツが受けているんだから、彼女たちが喜ぶサービスを開発しよう」と短絡的に考えないようにもしています。彼女たちが、デコデコしてなくても喜んで使いたくなるサービスって何だろう? そうやって視点や発想を巡らせていくと、ユーザー全体の最大公約数的なサービスがぼんやりと見えてきます。
ソーシャルメディアの世界展開を考えたら、文化慣習の異なるユーザーにも使ってもらえるものを開発しなければなりません。だからこそ、「木を見て森も見る」Webエンジニアになることが、世界挑戦の第一歩になるんじゃないか。そう思っています。
撮影/小林 正(人物のみ)
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