[連載:高橋信也④] ニッポンの悪しき習慣、開発側の受け身体質を変える「導線指向」の対話術
2011/06/10公開
株式会社マネジメントソリューションズ 代表取締役/CEO
高橋信也
外資系コンサルティングファーム2社を経て、大手メーカー系システム会社へ転職。PMとしてグローバル案件などを手掛けた後、2005年に各種プロジェクトマネジメント支援を行うマネジメントソリューションズを設立。著書に『PMO導入フレームワーク』(生産性出版/税込2310円)がある
前回も少しだけリーダーシップについて書きましたが、今回は正面からこのテーマについて考えたいと思います。
「リーダーシップが重要だ」という話はあちこちで聞いていて、またかと思う方も多いかもしれません。でも、日本のエンジニアにはいまだにリーダーシップが不足しているのは間違いありません。
そもそも、古典的なSI会社などでは、いまだに若手にはフォロワーシップ(リーダーに従属する仕事のやり方)を徹底的に叩き込んでいます。これは世界的に見ても、日本固有の教育カルチャーです。
PC相手の仕事から、ヒトに相対する仕事へ。リーダー業務を担い出す30代は、その変化に戸惑う人が増える年ごろ
フォロワーシップは、若いうちに経験する職務の多くで強く問われる資質ですが、問題なのは30歳を過ぎたころ。突然、チームリーダーやプロジェクトマネジャーを任されるようになり、リーダーシップを問われるようになるのです。
フォロワーとしての資質ばかりを見られ、指示に対してミスを犯さないことで評価が決まっていた人間にしてみれば、文字通り「どうしていいのか分からない」ですよね。
日本ならではの問題点はもう一つあります。それはクライアントとの関係。不満があってもおとなしくしていれば給料は上がり、案件も増えるという悪しき習慣が根付いている点です。
進めているプロジェクトの要件が、クライアントの事情により途中で大きく変更になることは、今も昔も変わらずあります。そのとき、エンジニアはどうしてきたか? 多くのエンジニアは、その要請を鵜呑みにしてきました。それが善しとされてきたからです。
しかし、時代は変わりました。プロジェクトの行方を左右する要件変更が相次ぐようでは、納期にもクオリティーにも影響が出ます。ちょっとの遅れや、ちょっとした判断ミスが、システムばかりでなくクライアント企業の競争力全体にまで影響をおよぼしてしまうのです。
しかも、そこに輪をかけて訪れている変化があります。それはベストアンサー、ベストプラクティスが誰にも分からない時代の到来です。
もしSIerのSEがアメリカ海軍の「リーダーシップ」を読んだら
「このツールさえ導入すれば任務完了」という楽なプロジェクトは、もうほとんどありません。最良が分からなくなったら、「最適」を皆で探すしかない。問われるのは、おとなしく要求を鵜呑みにする姿勢ではなく、それぞれが自分の知恵や知識や経験を持ち寄って、最適な組み合わせを模索する姿勢です。そこで問われてくるのが、リーダーシップというわけです。
実は当社でも、社員全員がどうリーダーシップを育てていくか、さまざまな研修を行いながら試行錯誤しているところです。わたし自身、いろいろな文献を読みあさっているのですが、中でも心にピタっとハマったのがアメリカ海軍の本でした。
『リーダーシップ「アメリカ海軍士官候補生読本」』という30年前の本なのですが、本書は冒頭でリーダーシップをこう定義付けています。
「リーダーシップとは、『一人の人間がほかの人間の心からの服従、信頼、尊敬、忠実な協力を得るようなやり方で、人間の思考、計画、行為を指揮できかつそのような栄誉を与えうる技術、科学、ないし天分』と定義されよう」
当社が手掛けるPMOで必要とされているリーダーシップを、短い文章で完全に説明できている、とわたしは思いました。こういう本が軍だけでなく、多くの人に30年も前から読まれてきたからこそ、アメリカには優秀なリーダーが育ってきたのでしょう。
見方を変えれば、多国籍国家だったからこそ、しっかりしたリーダーシップの必要性が早くから重視されていたのかもしれません。もちろん、誰がどのような経緯でリーダーになるのかは、チームや個人によってさまざまです。同書はこれについても3つに分類しています。
【1】 皆に選ばれるリーダー
【2】 利己的な動機であっても、その人のやっていることに人がついていき、
結果としてリーダーとなるケース
【3】 組織の中で任命されるリーダー
【1】はビジネスよりも、大統領選など政治の世界で見受ける形かもしれません。【2】はカリスマ性のある起業家に多くのフォロワーがついていく形。ベンチャー企業の創業社長などに多いパターンでしょう。
結局、通常のビジネスシーンで多いのは【3】の「任命されるリーダー」ということになります。企業内の話で言えば、昔は年功序列で出世が決まり、年長者が上司という名のリーダーに任命されていました。複数の企業によるプロジェクトならば、発注元であるクライアント企業や元請け企業が、暗黙の了解のもとでリーダーを務めてきたわけです。
しかし、繰り返しになりますが、今は上司やクライアントが「正解」を知っている時代ではありません。先の定義付けに忠実に当てはめるなら、身分や年齢や立場の上下でリーダーが決まるのではなく、「心からの服従、信頼、尊敬、忠実な協力」を手に入れられる人ならば、PGだろうがSEだろうが誰でもリーダー役を買って出るべき。そういう時代がとっくに来ています。
「主体的な言葉」でプロジェクトを語る勇気がSEを育てる
とはいえ、リーダーシップと一言で言っても、形はさまざま。例えば、滅私奉公の姿勢で周りに尽くし、リーダーとして一目置かれるケースが存在します。いわゆるサーバント・リーダーシップ、下手に出るリーダーシップがそれです。マザーテレサが体現したようなリーダーシップは、このパターンと言えるでしょう。
それに、フォロワーシップのままではリーダーにはなれないからと、クライアントの度重なる要件変更の依頼に対して強行に「No!」と言い続けたとしても、事態は好転しないでしょう。ヘタをすればクライアントの怒りを買い、周囲からも全幅の信頼を得ることのないまま、プロジェクトから立ち去ることになってしまいます。
ならば、「任命されたリーダー」が効果的にリーダーシップを発揮していくにはどうすれば良いか。わたしが考える有効な手法の一つは、クライアントやプロマネに対してある程度の「道」を示しながら、判断を引き出していくやり方です。
具体的には、「今はこういう状況にある」、「なのでこういう可能性が考えられる」と先々の選択肢をいくつか提示していきながら、自らto-be(あるべき姿)を示し、インタラクティブに「最適」に近付けていくやり方です。大切なのは決定が皆の腹に落ちることですから、そのための導線を、リーダーが引いていくわけです。
リーダーシップの発揮の仕方はシチュエーションによって多種多様にありますから、わたしが示したこのやり方もまた、どこでも通用するベストアンサーにはなり得ません。まずは主体性を持ってプロジェクトと向き合い、主体的な言葉で議論を持ち掛けていくことから始めるのが、リーダーになっていくための第一歩なのでしょう。
「主体的な言葉」とは、例えば「こういう理由があるので、こうしたいのですが、あなたはどう考えますか?」というようなもので、「あなたならどうする?」という一方的な問い掛けとは似て非なるものです。
前者は自分のビジョンを示した上で意見を聞いていますが、後者はそれを示さないばかりか、判断責任まで委ねている。これでは、単なる意見の押しつけ、責任の押しつけになってしまいます。
「主体的な言葉」によるリーダーシップを実践していくと、場合によっては受け入れてもらえないことも多いでしょう。時にはリーダーが間違いを犯すことも出てくるでしょう。長年PMOを専門でやってきたわたし自身、今でもうまくいかない時があります。
でも、恐れてはいけない。先述の通り、今は「正解」がなくなっているのですから。ミスを恐れず繰り返し行っていく胆力がないと、本当の意味でのリーダーシップを育てていくこともできません。人と人のぶつかり合いの中でしか、リーダーシップは育まれない。わたしはそう信じています。
撮影/外川 孝(人物のみ)
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